[感想]『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』”普通”の日常が愛おしくなるエッセイ
その日はとにかく荒んでいた。なにか本を読んで気を紛らわせたい。だけどそんな時って、本ならなんでも良いというわけではありません。
読み応えのある重い小説はNG、もちろん教訓めいた自己啓発を読む気分でもない。
そこで思い出したのが、阿佐ヶ谷姉妹のエッセイでした。
以前本屋で見かけてから、そのゆるくてかわいらしい装丁が私の心に刺さっていて。読むきっかけを逃していたけど、心が荒んでいる今こそ「のほほん」としたエッセイを読みたくなったのです。
本を開いてすぐ、ああ、これは好きだとわかりました。タイトルの「のほほん」はこのエッセイ本にぴったりな言葉だとも感じます。
そもそも、わたしは阿佐ヶ谷姉妹のファン。彼女たちの平和で朗らかな芸風は、どんなときに見ても心から笑えます。
エッセイは、書き手の内面まで覗き込めるある意味怖いものです。
彼女たちが大好きだからこそ、エッセイが期待外れだったらどうしようという思いも少なからずありました。
しかし、それは全くの杞憂であったことをすぐに知ることになります。
阿佐ヶ谷姉妹には、どうやら裏表がない。一見ガツガツしてないように見えるけど、実際にしていないのです。
以前、阿佐ヶ谷姉妹の仕事観に関するインタビュー記事を読みました。
→ 大きな野望は持たない。私たちにとって仕事は「思い出づくり」のようなもの──阿佐ヶ谷姉妹の仕事観
ここで彼女たちは、「仕事は思い出づくりのようなもの」と明言しています。そのことにわたしは衝撃を受けました。こんな生き方・働き方があるのか、と。
このエッセイではそんな阿佐ヶ谷姉妹のゆるい日常が、時におちゃらけて、時に赤裸々に、
ゆるい文体で綴られています。
本書の中から、わたしの好きなエピソードを少しだけ。
一緒に暮らしていると行動まで似てきて、別々に訪れた整体で鉢合わせしちゃったこと。スタッフさんにクスッと笑われちゃったり。
かと思えば相入れない部分もたくさんあって、映画で注目するポイントは全く違う。エリコさんはヒューマンドラマなど笑って泣けるものが好きな一方、ミホさんはドッカンバッタン激しいものが大好物だったり。
そんな感じで誤解を恐れず言ってしまえば、本エッセイは2人の仲良しなおばさんの日常生活が書かれているだけです。
この本だけ読んだ人は、まさかこの2人が人気芸人だとは思わないのではないか。そのくらい、2人の生活は質素で「普通」なのです。
しかし、庶民的ながらも、読み進めるうちに2人の暮らしが無性に羨ましくなってきます。それがこの本の不思議なところ。
なぜだろう、と少し考えてみる。
- 赤の他人なのに、本当の姉妹のように仲が良いところ
- 「普通」の生活を心から楽しんでいるところ
- 周りの人々から愛されているところ
わたしたちが「普通」だと思いながらも手に入れられない、そんな日々を彼女たちは生きている気がします。
阿佐ヶ谷姉妹は、一見すると「普通のおばさん」。庶民的な感覚を持ち、仕事にガツガツしているわけでもない。
しかし、エッセイ自体も、内容や文体の端々から彼女たの魅力が溢れています。ゆるい暮らしにも、彼女たちなりのこだわりが随所に感じられます。
そして、それを周りの目を気にせず楽しんでいる生き方そのものが2人の魅力なのでしょう。
阿佐ヶ谷姉妹のエッセイを読み進めるうち、わたしの荒んだ心はいつのまにか凪いでいて。
普通の日常を大切に、楽しんで生きよう。気づけばそう思っていました。
関連記事はありません